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出版物・研究成果等

証券経済研究 第29号(2001年1月)

大型財政政策と低金利政策(上)―90年代日本の金融経済動向分析―

宮田美智也(金沢大学教授)

〔要 旨〕
 91年7月以後95年9月に至る間公定歩合は6%から0.5%へと9次にわたって引き下げられ,その低金利政策はいまも維持されている。それに呼応して,92年3月以後90年代を通 じて大型の経済対策も発動されてきた。その対策は同年8月のそれから巨額の財政支出を伴い,政府債務を急激に累増させてきた。本稿はそのような低金利政策と大型の財政支出政策の意義を討究しつつ,90年代日本経済の動向を金融史分析的に明らかにする。
 90年代日本経済の実体的な動きは経済指標(経済成長率等)から見て,その前期(94年まで),中期(95〜96年)及び後期(97年以後)に3区分できる。他方,90年代は一括して把握される必要があることを示唆する指標(失業率,卸売物価)もある。そこからつぎの含意が引き出せる。90年代は恐慌期にあること,したがってその恐慌期は3期に分けられる。
 しかし,90年代が恐慌期であることを示唆する指標も,その点での際立った軌跡(固有の恐慌現象)を示してはいない。それは大型財政政策や低金利政策が過剰現実資本の温存(恐慌の激発の防止)に役立ったからであり,その代わりに財政赤字の急拡大,株価の低迷,企業債務の過剰,金融機関の債権の大量 不良化,低金利状況の長期化が,90年代的な恐慌現象となって現れている。しかも,その前期は円高期であり,企業の海外進出が顕著となる。これは従来国内的に閉じられていた社会的再生産の体系を海外に向け開放することであり,財政金融政策の効果 を削減する構造的要因として働く(以上本号)。
 そのように過剰資本が温存されているのに,成長率等の指標によって景況が回復軌道に乗ったと見られたのが90年代中期である。資本の過剰化は一層加重され,90年代後期に持ち越される。
 90年代後期になると,資本過剰の圧力は金融機関の破綻を導く。金融システムの安定化(直接には金融機関の救済)への公的関与が目立ってくる。97年までは日銀(と預金保険機構)が前面 に出,98年からは財政(国民的な債務負担)が直接出動してくる。金融システムを成り立たしめている預金制度維持の必要上からである。それは個人金融資産としての預金(元本)の保護という利益をもたらす。そのような利益は企業部門にも配分される必要がある。そこにゼロ金利政策や金融機関保有債権の放棄の意義がある(以上次号)。

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