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第103号(2018年9月)

戦前日本における「変態増資」と株式時価発行
—日本鋼管の事例を中心に—

齊藤直(フェリス女学院大学国際交流学部教授)

〔要 旨〕

 本稿は,両大戦間期に一定数の事例が確認される特殊な増資方法である「変態増資」(別企業を設立し,それを合併することで資本金を増加させる形の増資)に着目し,その資金調達方法としての特徴を検討することを課題とする。具体的には,1933年に第二鋼管の設立・合併という形で変態増資を行い,同社の株式の一部(13万4千株のうち5万株)を公募時価発行した日本鋼管の事例を主たる分析対象とする。
 当時の法制度のもとでは,資本金が全額払込済になる以前の段階における新株発行は禁止されていたが,変態増資であれば,形式上は合併増資となることから,未払込資本金が存在する段階でも実質的に新株発行を行うことが可能であった。したがって,変態増資には,高株価時など有利な時期を柔軟に選択して行い得るという利点がある。しかし,その利点にもかかわらず,変態増資が行われた件数は必ずしも多くないように見受けられる。日本鋼管の事例では,第二鋼管株式の公募発行時に,①公募する株式が一部に限定され,②公募のうち70%が実質的に第三者割当の形で発行されるなど,第二鋼管の株主構成が意識されていた。これは,母体企業(日本鋼管)と新設企業(第二鋼管)の合併を後者の株主総会で円滑に承認するためであったと推測される。こうした新設企業の株主構成に関する不確実性が,理論的には有利な資金調達手段である変態増資の件数を少なくした要因であったと筆者は考える。

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