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第108号(2019年12月)

M&Aにおける経営改善効果の検証

浅田克己(関西学院大学大学院商学研究科博士後期課程研究員)

〔要 旨〕

 本稿では,M&A発表時の株価効果を計測し経営改善効果を検証する。その際,日本のM&Aの特徴であるグループ企業間のM&Aに注目し非グループ企業間M&Aとの差異を検証する。日本の上場企業同士の2008年から2016年までのM&A発表時の株価効果をイベント・スタディで計測した結果,サンプル全体の株価効果であるCARの平均値は,買手企業が0.42%,ターゲット企業が16.06%,両者加重平均は1.37%でいずれも統計的に有意なプラスとなっており,全体としてシナジー効果があったことを示している。
 買手企業とターゲット企業の資本関係が弱い段階でのM&Aは,株式市場から事業再編に伴うシナジー効果への期待から株価効果も高い。しかし,グループ内M&Aは,親会社の持株比率が高まると,買手企業および両者加重平均のCARはいずれもマイナスとなる。
 経営改善効果については,非グループおよび資本関係の弱い段階でのM&Aにおいて,シナジー仮説や大坪[2011]の事業再編仮説と整合的で経営改善効果が確認された。しかし,グループ内取引では経営改善効果は確認できず,大坪[2011]の関係会社救済仮説と整合的といえる。
 シナジー効果は両者加重平均CARとして把握できる。クロスセクション回帰分析の結果,両者加重平均CARに全体としてプラスに影響した要因は,ターゲット企業の買手企業に対する相対的規模であり,マイナスに影響する要因は,グループ内取引での親会社の影響度とターゲット企業のROAであった。非グループに関しては,プラスに影響した要因は,買手企業以外のターゲット企業の大株主持株比率の増加,およびターゲット企業の規模が相対的に大きいことが挙げられる。グループ内取引に関しては,両者加重平均CARに対し有意にプラスの影響を及ぼす要因が無く,マイナスの影響を及ぼした要因としては,救済型M&A,買手企業の持株比率の増加,買手企業の売上高成長率,買手企業の有利子負債比率が挙げられる。

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