第110号(2020年6月) 株式市場研究会特集号(下)
資本コストの蹉跌
倉澤資成(横浜国立大学名誉教授・当研究所客員研究員)
- 〔要 旨〕
-
投資プロジェクトの評価と採否の決定が,この論文の議論の対象である。
投資プロジェクトからの将来の不確実な収益の評価には,確実性等価(certainty equivalent)を用いる方法とリスク調整後の割引率(この論文では,これを資本コストと呼ぶ)によって期待収益を割り引く方法がある。現在の資本コストの議論の出発点となったModigliani and Miller(1958)の論文は,確実性等価にもとづく議論を正当化する満足できる理論は提供されてない,と主張する。
現在のファイナンス理論は,無裁定条件とリスク中立確率の存在の関係を明らかにした。リスク中立確率を用いた不確実な将来収益の評価は確実性等価を用いた評価そのものであり,この意味で,リスク中立確率の存在は確実性等価による説明を正当化する強固な理論的基礎を提供する。
これに対して,リスク調整割引率で将来の期待収益を割り引く方法には大きな内在的欠陥があり,それを避けるには追加的な仮定が必要となる。主要な追加的仮定は二つあるが,どちらも無視できない難点をもつ。