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第112号(2020年12月)

危機とイングランド銀行のバランスシート—新型コロナ危機対応を中心に—

斉藤美彦(大阪経済大学経済学部教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 2018年8月に政策金利を0.75%に引き上げたイングランド銀行(BOE)であったが2020年3月には月内に2度の政策金利の引下げを行い,その水準を史上最低の0.1%とした。この2度の引下げの間に,ベイリー新総裁の就任があったが,新総裁就任後の3月19日の引下げ発表時には,これまでで最大規模の量的緩和(QE)の拡大(2000億ポンド)が決定された。その後,BOEはQEを従来にない速さで行い,これにより市場の機能不全を封じ込めたとの理解から,QEを「大規模」で「高スピード」で行うことには意味があるとの認識にいたった模様である。
 このことは中央銀行のバランスシートを危機対応関連でカウンターシクリカルに変動させることへのポジティブな認識へとつながった。2020年4月のブリハMPC委員の講演および8月のジャクソンホール・シンポジウムにおけるベイリー総裁の講演(および提出ペーパー)においても,この認識は示されており,グローバル金融危機(GFC)以前の金融機関の準備需要は過少であったとの見解までが示されている。このことは金利正常化後においてもBOEのバランスシートは元の水準に戻ることはないということであり,出口政策の大幅な変更を意味する。このような政策変更のリスクは何か,不均衡の増大の結末はどうなるかについての観察が必要となるとともに,資本主義の段階としての金融化は転機を迎えているとの認識が必要であるかもしれない。

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