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第119号(2022年9月) テクノロジーと金融革新に関する研究会特集号

人工知能に関する技術革新と資産運用業の将来:歴史的概略と経済学的考察

祝迫得夫(一橋大学経済研究所教授)

〔要 旨〕

 本論文の前半では,機械学習(machine learning)に代表される近年の人工知能関係のテクノロジーの発展が,資産運用業の最先端の動向に及ぼすについて議論する。株式市場の分析で伝統的に用いられてきたデータセットを用いた取引戦略の構築の過程における機械学習の役割に焦点をあて,経済学・ファイナンスの学術研究における「合理性」の概念と,人工知能による効率的な学習の間にあるギャップの重要性,及びそれがマーケットのあり方に与える潜在的影響について検討する。機械学習の応用が拡大することで,金融取引の自動化・高速化に加え,取引戦略の同質化がこれまで以上に加速することによって株式市場の構造変化がより頻繁になり,マーケットの内在的な不安定性が生み出される可能性を指摘する。論文の後半では,既存のアセット・プライシングの実証研究,特に1990年代初めのFama and Frenchの以降のファクター・モデルの問題点に関して,機械学習のテクニックを応用した最近の研究について議論する。既存のファクター・モデルの研究では,個別銘柄やポートフォリオの収益率の特性を,比較的少数の因子で説明できることを暗黙裡に仮定している。しかし,最近の機械学習を応用した研究では,スパース性と呼ばれるこのような性質が満たされていないことが指摘されている。

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