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第119号(2022年9月) テクノロジーと金融革新に関する研究会特集号

「見切り発車投資」の経済理論

佐藤祐己(慶応義塾大学経済学部教授)

〔要 旨〕

 新しい技術は,多くの投資家にとって「よく分からないもの」である。にもかかわらず,彼らがそれに飛びつくのは何故だろうか?本稿では,本来は長い時間をかけて収益性を見極めるべき新技術に早まった投資が行われる,「見切り発車投資」のメカニズムを理論的に分析する。負債契約と情報の非対称性の組み合わせにより,資金の借り手は不確実性の高い新技術でギャンブルを行うインセンティブを持つ。そのギャンブルを阻止するためには,貸し手がエージェンシーコストを負担する必要がある。貸し手はそのコスト負担を回避するために,借り手によるギャンブルを許容する。その結果,本来であれば投資を控えてその収益性を見極めていくべき初期の段階であっても,新技術に投資が実行されてしまう。この見切り発車投資によって,「一時的にたまたま良く見えていただけの悪い新技術」に資金が流れ,貸し手の資産が不必要な乱高下に晒される可能性が高まる。このような見切り発車投資を抑止するという観点からは,2つの政策的含意が得られる。1つは,資金の受け手のバランスシート開示の厳格化等を通じて,金融取引の透明性を高めることの重要性。2つめは,導入から間もない不確実性の高い新技術関連の資産について,レバレッジ取引をある程度制限する可能性である。

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