第124号(2023年12月) 日米資本市場研究会特集号
米国における気候関連リスク情報の開示規則
:新領域への規制アプローチ
若園智明(当研究所理事・主席研究員)
- 〔要 旨〕
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本稿は,SECが2022年3月に提案した気候関連リスクの開示規則を題材とし,この領域への規制適用に際してSECが対処すべき諸課題と適切な規制アプローチについて検討する。
今回の規則提案は,発行体に求められる法定開示に気候変動に関連する情報を追加する試みであるが,例えば温室効果ガスの排出量の開示など,これまでSECが発行体に対して開示を求めてきた環境や気候に関連する情報とは要求の次元が異なっている。これは実質的に,SECが規制適用を新領域へ拡大する行為とも解釈できる。それ故にSECには,法的権限の確認の他にも規制の経済分析などを慎重に進め,適切な規制適用のステップを従来の提案規則よりも明確に示す必要性が生じる。
本稿でみるように,SECの提案規則に対して提出されたコメントは新規則への支持と不支持で真っ向から対立している。特に連邦議会議員が寄せたコメントは共和党と民主党で真逆とも言える。この背後には政治的な利害対立があるが,独立規制行政庁(IRA)であるSECの規制活動の独立性や中立性を揺るがしかねない問題ともなっており,SECの規則行動はかつてない程の耳目を集めている。
特に本稿では,SECの規制作成における①法的権限(重要性の基準),②気候関連への専門性,③規制の経済分析(コスト分析)に注目して議論を進める。