第125号(2024年3月)
日系多国籍企業の海外立地に対する課税の効果
—カウントデータを用いた実証分析—
野村容康(獨協大学経済学部教授・当研究所客員研究員)
山田直夫(当研究所主任研究員)
- 〔要 旨〕
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本稿では,最近における日系多国籍企業の立地に与える課税の効果を業種別に把握することを目的として,欧州における国別子会社のカウントデータを用いた分析を行った。税制の効果を検証するにあたっては,各国の法定法人税率,平均実効税率(EATR),限界実効税率(EMTR),配当への源泉徴収税率,減価償却控除規定等を考慮した。
分析の結果,立地を阻害する課税要因の強さでは,おおむねEMTR<法定税率<EATRという順番であり,先行研究の実証結果をおおよそ裏付けるものであった。他方,減価償却控除については,想定通り立地を促進する効果が認められ,特に製造業や卸売・小売業など一定の業種において重要な要因となっている。源泉徴収税率については,それ自体の弾力性は相対的に低いものの,他の税制要因と組み合わせて,なお立地には統計的に有意な阻害効果をもつことが確認された。
業種別にみた課税効果の強さでは,税率弾力性の推計を通じて,卸売・小売業<製造業<サービス業<金融業の順で,課税の及ぼすマイナスの効果が大きいことが明らかとなった。サービス業とともに,特に金融業で税率の効果が強かったのは,これら事業における固定資産の比重の低さが関連しているとみられる。反対に,卸売・小売業の大部分を占める卸売業の立地において,税率は相対的に重要ではなかったが,その要因として,この業種による海外展開の水平的直接投資としての性格や現地日系製造業の存在が課税の効果を弱めた可能性が考えられる。