第126号(2024年6月) 株式市場研究会特集号
新規株式公開企業において女性取締役の存在が
アンダープライシングの水準におよぼす影響に関する実証研究
船岡健太(九州産業大学商学部教授・当研究所客員研究員)
姚智華(北九州市立大学経済学部准教授)
- 〔要 旨〕
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2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂においては,女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等に関する多様性の確保に向けた人材育成方針やその実施状況などを開示すべきとする補充原則2-4①の追加が行われた。このコード改訂後における2022年の東京証券取引所プライム市場上場企業においては,これまでの数値を大きく上回る80%を超える企業で女性取締役の存在を確認することができる。
新規株式公開企業においても女性取締役の存在は増加傾向にあり,本稿では,この新規株式公開企業における女性取締役の存在が公開価格のアンダープライシングの水準におよぼす影響について実証的に検証を行った。実証分析においては,全取締役に占める女性取締役の比率および女性取締役の存在を示すダミー変数が負に有意な影響をおよぼしている状況が示された。全観測対象企業を売上高により二分割したサンプルでは,売上高が中央値より小さいサンプルにおいて,女性取締役の比率およびダミー変数ともに全観測企業を対象とした場合よりもアンダープライシングの水準に対して大きな負のインパクトを有する結果が示された。この結果は,大規模企業に比して,情報の非対称性が大きい中小規模・中堅企業において女性が取締役に登用されていることがポジティブなシグナルとなることを示唆している。