第126号(2024年6月) 株式市場研究会特集号
ESG情報を銀行が開示すれば株式市場や業績で良いパフォーマンスが得られるか
—グローバルな研究展望と考察—
辰巳憲一(学習院大学名誉教授)
- 〔要 旨〕
-
ESGへの適切な対応は,どの国もどの業種も関心は高く,世界的な動きになっている。世界の銀行業がどうESGに対応しているか検討する研究が,他業種と比べて少ないわけではない。関連する研究は多岐に渡り,その数は膨大である。
しかしながら,ESG情報開示の程度によって銀行のパフォーマンスは良いかどうか,銀行が開示する誘因は何か,などの研究に限って注目すると件数は極めて少なくなる。
そのうち,開示すれば報われるのか,が本稿の主要テーマにする。どの情報を何時どこまで開示するべきか,悩んでいるはずの銀行経営陣には参考情報を提供できるかもしれない。
世界の銀行のESG情報開示は,研究件数では,好業績をもたらすとする計測結果の数が圧倒する。しかしながら,研究対象となったサンプルの銀行数の観点から見てみると必ずしも圧倒することはない。
投資信託やリートを分析した辰巳(2020a)と辰巳(2020b)では,投資信託よりリートの方がESG対応に対する評価は良好であった。世界の銀行も世界のリートに匹敵する好業績な結果をもたらすのである。銀行が適切にESG情報を開示すればパフォーマンスに好影響を及ぼし,開示は報われているのである。
本稿では計測上問題になる点も指摘する。様々な財務変数が説明変数,いわゆるコントロール変数として採用されているが,それらの詳細な検討は紙幅の制約もあって本稿では省略している。コントロール変数のなかでも特に注意するべき点は,融資先企業のESG度が取り出され分析される事例は見当たらない点である。
また,サンプルとなる銀行がESG情報,例えばCEO等役員の報酬,を開示していないなら,計量分析のサンプルから除外されるのがふつうである。この際,開示しないことを決定した要因を分析することはなされない。他方で,開示の程度はどのような要因が決定しているかの,銀行の行動の計量分析はある。両者からなる連立方程式体系を推定することが必要とされているのではないかと考えられる。