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第126号(2024年6月) 株式市場研究会特集号

無形資産経済化が進行するなか見過ごせない無形負債
—サイバー攻撃対策などのESGを事例に—

辰巳憲一(学習院大学名誉教授)

〔要 旨〕

 最近注目されている無形資産の代表はよく取れあげられるIoTやAIだろう。これら先端技術が実現する機能は多岐にわたるが,監視と見える化の2つに集約される。それらが提供する付加価値は,24時間365日止まらない機能を持ち,安全安心で快適な生活・社会を実現するなど,多岐に亘る。その多くが金銭で表せない価値を含んでいる。
 これらのほかに経済全体に及ぼす価値もある。経済のグローバル化,ネットワーク化により,世界中のモノ・サービスが需要に応じて即座に供給されるようになっている。これらを実現しているのは無形資産である。
 本稿では,無形資産と無形負債の専有性等の10を超える特徴を説明し,それらの経済的帰結を分析し,無形資産と無形負債にはそれぞれ好ましい点と望ましくない点が共存し実証的に不明な点もあることを明らかにする。
 生産性の低迷を回避するためには,賃金をはじめとした,人的資本への投資に加え,デジタル分野を含む無形資産への投資を促進し,付加価値の向上につなげる必要がある,と主張される。しかし,それに伴って,無形負債を抱え込む可能性があるため,注意が必要である。
 無形資産は投資誘因を低下させという欠点があり,インフレや競争環境に対する効果は不明である。無形負債は,制度的負債だけでなく経済的負債を含み,破壊的効果をもたらす場合がある。しかし,投資先選定の参考資料になるように技術やセキュリティなどの情報の開示を企業に求めれば経済成長・発展を促す。
 これらの特徴のうち,無形資産にとって特に拡張性,波及効果,埋没費用そしてシナジーが,無形負債にとって特に波及効果,シナジーそして劣化速度が,重要な経済的意味を持つことがわかった。

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