第127号(2024年9月)
AI等の予測技術に対峙するSECの規制アプローチ
若園智明(当研究所理事・主席研究員)
- 〔要 旨〕
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本稿は,2023年7月にSECが公開した提案規則を取り上げ,AIを含めた予測データ分析を行う新技術に対するSECの規制アプローチを分析する。この提案規則は,ブローカー・ディーラーや投資アドバイザーが新技術を利用することにより生じる可能性がある利益相反の管理を求めている。
米国金融・資本市場におけるAI等の使用に関しては,金融安定監督協議会(FSOC)が市場の安定性を脅かす潜在的リスクについて議論しており,資本市場の監督を担うSECの規制行為においても業者の新技術利用に伴うリスクに対応する必要性が高まっていた。この提案規則は,新技術を利用する際の利益相反を特定・評価した上で,排除または中和することをブローカー・ディーラーと投資アドバイザーに義務付けるとともに,利益相反に関する記録の保持を求めている。今回の提案規則は,従来の情報開示を基礎とする利益相反の管理とは異なった規制アプローチであり,利益相反の定義自体も拡大させている。さらには,AIを含む新技術(対象技術)を相当に広範に定義しているため規則の実行コストが高くなり,特に中小の業者が新技術を使用できなくなる懸念がある。提案規則に対してSECへ提出された連邦議会議員のコメントでも,総じてSECの提案規則は批判されている。
本稿の最後では,SECの新技術に対する規制アプローチの意義と課題を明らかにし,最終規則化に向けてSECが対処すべき事項を検討している。