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第127号(2024年9月)

わが国機関投資家の株式保有と従業員の利益

壷内慎二(名城大学経済学部教授)
三和裕美子(明治大学商学部教授)

〔要 旨〕

 本稿は日本のガバナンス改革の効果についての研究報告である。スチュワードシップ・コード,コーポレートガバナンス・コード導入後,国内機関投資家は受託者責任や運用効率を求められると同時に,企業への監視も期待されるようになった。これら2つのコード導入前後の株主利益や従業員利益と機関投資家との関係性を分析することで,日本のガバナンス改革の効果を示すことが本稿の目的である。2008年から2020年に東京証券取引所1部上場企業のうち3月決算企業935社について,配当,従業員給与,雇用と国内・海外機関投資家全体の株式所有比率を観察したところ,赤字の場合には機関投資家の株式所有比率が大きいほど配当が削減され,従業員の給与あるいは雇用の削減が抑制されていた。この観察から,企業が赤字のとき機関投資家の株式所有比率が大きいほど配当の削減率が大きく給与や雇用の削減率が小さい,また,スチュワードシップ・コード,コーポレートガバナンス・コード導入後ではこれらの関係が強くなる,という仮説が得られた。バイバリエイト・プロビットモデルを用いて配当と従業員給与,配当と従業員雇用との同時決定を分析したところ,これらの仮説が支持された。この分析結果は,2つのコード導入後に国内機関投資家が株主利益と従業員利益に影響を及ぼしていることを示唆するものであり,日本のガンバナンス改革の効果を示す結果であった。

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