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第127号(2024年9月)

クレジット・センシティブ・レート(CSR)に対するIOSCO原則の適用を巡る課題

中村篤志(新潟大学経済科学部講師)

〔要 旨〕

 ポストLIBOR時代の金利指標の1つとして,米国では,クレジット・センシティブ・レート(CSR)を巡る議論が行われてきた。銀行業界を中心にCSRを支持する声がある一方で,証券監督者国際機構(IOSCO)は,一部のCSRがLIBOR同様の欠陥を抱えているとして,金利指標に関するIOSCO原則に準拠しないとの認識を表明した。IOSCO原則は,法的拘束力を欠く規範(ソフト・ロー)でありながらも,国際金融市場において事実上の拘束力が働いており,市場参加者の選択に大きな影響を与える。IOSCOによる表明の後,CSRの一種であるBSBYの公表停止が決定されるに至った。
 国際金融市場における国際機構によるソフト・ローの民主的正統性については従来から論じられているが,本稿では,金利指標改革という新たな視角から,IOSCOの今次対応の正統性を考察した。その結論として,第1に,手続・過程の観点,具体的には利害関係者との協議や個別の国内法との整合性といった面で正統性には疑問が残る。第2に有効性の観点,具体的には判断基準の曖昧性やIOSCO原則の掲げる理念への背馳,金利指標毎の性質差異への考慮といった面でも,十分な正統性に基礎付けられているとは評価し難いと考える。国際金融市場の中心的な金利指標(LIBOR)の終焉という,時代の一大転換点にあるからこそ,金利指標の算出・利用にかかるグローバル・スタンダードを形成していくにあたり,その決定の民主的正統性の確保・向上という観点にも留意した議論が望まれる。

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