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第128号(2024年12月)

ユニコーンの企業価値評価をめぐって

佐賀卓雄(当研究所名誉研究員)

〔要 旨〕

 2010年代中頃より,アメリカでは時価総額が10億ドルを越える非公開会社,いわゆるユニコーンが増加している。これらの企業は伝統的に非公開を続けるカーギルやベクテルのように,企業戦略として非公開を続けるのではなく,数年後にはIPOにより公開するか,あるいはM&Aにより他の企業の傘下に入っている。
 スタートアップが成長し,IPOの条件を充足するようになっても,依然として非公開に留まる背景には,資金調達環境の変化と,スタートアップの企業戦略がある。資金供給面では,ミューチュアル・ファンド(MF),ヘッジ・ファンド(HF),年金基金,ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)などの非伝統的な投資家がスタートアップ投資に参入し,非公開に留まることを可能にしている。スタートアップの側では,人的資本,パテント(特許)やコンピュータ・ソフトなどに関連した組織資本の重要性が増すにつれ,一定期間,非公開を続けることによってその情報の遺漏を回避することができる。
 かくして,ユニコーンは無形資産の重要性が高いテクノロジー関連の業種に集中している。これらの業種では,競合他社への情報の遺漏を避け,人材を確保するために,ネットワーク効果,規模の経済を迅速に実現する必要がある。このため,公開を避けつつ,多額の資金を獲得する方策を追求している。
 しかし,他方では,優秀な従業員を確保するために,彼らに供与するストック・オプションに対して流動性を付与する途を与えることも切実な問題になっている。また,スタートアップ投資の世界では非伝統的投資家といわれるMFや年金基金などの機関投資家は,元来は投資対象を公開市場に限定しており,IPOの可能性が高まるレイト・ステージの投資に集中する傾向が強く,ユニコーンに対して公開を迫る圧力となっている。

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