第129号(2025年3月) テクノロジーと金融革新に関する研究会特集号
ダークプールの経済理論
佐藤祐己(慶應義塾大学経済学部教授)
- 〔要 旨〕
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本稿では,ダークプールについてのシンプルな理論モデルの構築を試みる。モデルでは,二人の情報投資家が,リット市場とダークプールのいずれかを選択する。リット市場にはマーケットメーカーが常駐するため売買不成立のリスクはないが,マーケットインパクトとフロントランニングのリスクがある。他方ダークプールでは,マーケットインパクトはないが,投資家同士が協調しなければ売買自体が不成立になるリスクがある。分析の結果,フロントランニングのリスクが小さい場合,リット市場だけが利用される「均衡1」が唯一の均衡になる。しかし,フロントランニングのリスクが高い場合,均衡1に加えて,両プラットフォームが共存する「均衡2」と,ダークプールだけが利用される「均衡3」も,複数均衡として出現する。三つの均衡のうちどれが実現するかは,投資家たちの自己実現的期待に依存する。三つの均衡はパレート順位付けができ,経済厚生が最も高いのは均衡3,次に均衡2,最も低いのは均衡1である。すなわち,リット市場のみが利用される均衡は,経済厚生が低いにもかかわらず,投資家間の「協調の失敗」の結果として実現しうるのである。ダークプールの存在は,リット市場の価格形成に影響を与える。情報投資家が有する私的情報がダークプール内に留まる可能性があるため,リット市場における価格の情報反映度とボラティリティはともに小さくなる。