第13号(1998年5月)
英国における証券化と規制・監督
―金融サービス法とイングランド銀行―
高橋正彦(日本資産流動化研究所調査部長)
- 〔要 旨〕
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投資家保護を主目的とする英国の金融サービス法の下では,資産担保型証券(ABS)のような資産流動化・証券化商品は,同法上の投資商品である集合投資計画のユニットの属性を有しているが,実務上,特別 目的会社(SPC)を用いたペイスルー型スキームを採ることにより,適用除外されている。こうした取扱いの背景には,ABSのような仕組みが複雑で販売ロットも大きい商品は,事実上機関投資家のみによって投資されるため,個人投資家への販売を想定した集合投資計画としての規制の対象とすることは適当でない,との判断がある。
一方,英国では,これとは別に,中央銀行であるイングランド銀行(BOE)が,銀行の健全経営規制の観点から,貸出債権の流動化・証券化に対し,国際決済銀行(BIS)の統一基準に付加される独自の自己資本比率基準を通 じて,踏み込んだ個別指導を行っている。このような監督手法は,主要国の金融規制・監督方法のなかでも独自性が高く,注目すべきものである。
我が国においては,流動化・証券化市場についても,個人を含む一般投資家の存在を無視することはできないほか,中央銀行と金融機関との関わり方などの歴史的・制度的背景も異なることに留意する必要がある。ただ,日本版ビッグバンの進行のなかで,今後の我が国の証券化法制や金融規制・監督のあり方を検討していくにあたって,英国金融サービス法による証券化規制や,貸出債権証券化に関わるBOEの銀行監督をひとつの先進事例として参考とすることは,極めて意義深いことといえる。