第15号(1998年9月)
日米における普通社債投資と生命保険会社
松尾順介(大阪研究所主任研究員)
- 〔要 旨〕
-
近年国内公募普通社債発行が引き続き増加しており,1997年度は557銘柄8兆7,995億円に達している。このような発行市場の拡大を支えている受け皿のひとつは,生命保険の社債投資であり,機関投資家の社債投資が拡大しているわけであるが,日本の社債消化を歴史的に概観すれば,社債投資が機関投資家によって積極的になされたことはほとんどなく,これは近年の変化であるといえる。したがって,近年社債消化先として生保をはじめとする機関投資家の比率が拡大していることは,国内普通 社債が純粋な投資に耐えうるものとなりはじめたことを意味するものであると思われる。
他方,米国の社債市場をみると,社債保有において生命保険会社は中心的な役割を果 たしており,1997年の保有額は1兆ドルを超え,全体の比率でも約30%を占めている。米国では,このほかに非居住者(5,300億ドル,16%),年金基金(2,800億ドル,8%),ミューチュアル・ファンド(2,700億ドル,8%),州地方政府退職年金基金(2,000億ドル,6%),その他保険(1,500億ドル,4%),などが主たる保有部門であり,家計(4,500億ドル,13%)の保有も低くはないが,全体としては機関投資家中心の保有構造となっているといえる。なかでも,生命保険会社の保有シェアは,いくぶん低下傾向にあるものの,ほぼ歴史的に一貫して高い比率で推移しており,依然として社債投資に対する積極的な取り組みが見られる。
そこで,日米間における生命保険会社の社債投資上の相違点を考察すると,第一に米国の生命保険会社の私募債に対する取り組みが積極的であるのに対し,日本では消極的であること,第二に米国の生命保険会社が低格付社債に対しても全体的に慎重な姿勢を強めつつも投資を継続しているのに対し,日本では内規などによってBBB格以下の投資を自ら規制している場合が多いことが指摘できる。そして,これらの相違点の生じる要因については,生命保険会社側の要因および課題と,社債市場に内在する要因および課題とがあると思われ,いずれの側の課題も急速には解消するものではないと思われるが,社債市場の側の課題については変化の可能性はあり,また生命保険会社側の課題も今後の生命保険会社の運用難の中で解消されていく可能性は大きいと思われる。
したがって,本稿では,まず国内公募普通社債の消化が歴史的にどのように変化してきたかを概観した上で,生命保険会社の社債投資の歴史的変化を跡付け,最近の生命保険会社の社債消化について考察する(I章)。次に,米国の社債保有の推移を歴史的に跡付けた上で,米国生命保険会社の社債保有の歴史的展開を考察する。さらに,80年代後半の過度のジャンク債投資によって,一部の生命保険会社が経営破綻するという事態が90年代初頭に生じたが,これにともなう生命保険会社の社債投資行動の変化も考察する(II章)。最後に,これらの相違点を中心に考察した上で,これらの相違点の生じる要因と今後の課題について検討する。その際,生命保険会社側の要因および課題と,社債市場に内在する要因および課題とに分けて検討する(III章)。