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第16号(1998年11月)

アメリカ・マネーセンターバンクの途上国向け貸し出しについて
―1970〜1980年代を中心に―

添田利光(中央大学大学院)

〔要 旨〕

 1980年代の途上国債務問題(累積債務問題)は,これまでにも様々な観点から検討されてきた。しかし,その多くは,借り手側(途上国側)や国際資金循環の観点からの分析で,貸し手である銀行の立場から一貫して理解しようとするものは少なかった。
 本稿は,この問題について,当時の最も代表的な貸し手であったアメリカ商業銀行の立場から,歴史・実証的に検討する。すなわち,1970年代半ば以降,アメリカ商業銀行が途上国向け貸出を急速に増加させ,82年8月のメキシコの債務返済不能通 告により途上国債務危機が顕在化し,87年から89年にかけて主要銀行の多くが多額の引当金を積み増すことによってこの問題に一応の決着をつけるまでの一連の経緯を,アメリカ商業銀行,中でもマネーセンターバンクの立場から通 史的に描写する。
 このような分析を通じ,明らかになるのは,どのような経済状況がこれらの銀行に途上国向け貸出へと傾斜させ,かつ撤退を遅らせたかである。本稿は,それがアメリカ国内における構造的な経営環境の変化(悪化)であり,したがってまた,国内・国外間の収益性格差であったことを示唆する。さらに,当時の判断としては相対的に収益性の高かった途上国向け貸出が,最終的にはマネーセンターバンクに巨額の赤字を発生させたことを示し,この時期の途上国向け貸出がアメリカ商業銀行にとってどのような意味をもっていたのかについて検討する。

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