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第18号(1999年3月) グローバル・スタンダードとわが国公社債市場

景気低迷・金融不安下の資金循環の諸様相
―1996〜97年度の動きを中心に―

石田定夫(元明治大学教授)

〔要 旨〕

 この小論は,前稿「1994〜95年の資金循環の態様と公社債市場」(本誌第4号,96年11月所載)の続論として,景気局面 が一段と深刻化し金融不安が強まってきた96〜97年度を中心に,90年代の資金循環の態様を統計的に記述し,それを踏まえて「資金循環の図式論」の立場から現局面 の特色と問題を位置づけることを目的とするものである。次の諸点は主要な統計的観察点と帰結である。
 (1) まず「部門別資金過不足」バランスによってわが国経済の動きの基本的枠組みをみると,企業投資活動の低調から企業部門は94年度「資金余剰」(投資不足)の部門に変化して以来,その状態が97年度まで4年間続いている。公共部門では財政事情の悪化からその「資金不足」(貯蓄不足)が拡大し,その対GDP比率は97年度6.8%を記録した。これはバブル期89年度の企業部門の同比率に匹敵する数値である。個人部門の「資金余剰」(貯蓄超過)は雇用・所得環境の悪化から伸び悩んでいる。また海外部門の「資金不足」(わが国経常収支黒字)が拡大した。これはわが国経済の黒字体質のうえに,欧米の好景気,国内景気の停滞,円安効果 などの循環的要因が重なったことによる。
 こうした「部門別資金過不足」バランス,とくに企業部門の「資金余剰」の恒常化と公共部門の「資金不足」の拡大の動きは,今後景気の目立った自律的回復がみられない限り続くものと思われる。
 (2) 企業・個人・公共の国内経済3部門の資金調達・運用額によって資金循環全体の規模をみると,90年代初めのバブル崩壊後の景気後退過程において資金循環の規模は趨勢的に縮小してきた。とくに96〜97年度にはそれが一層縮小し,その態様にも著しい変化が生じた。これはバブル発生によって肥大化した資金循環が,バブル崩壊後一連の調整過程をたどってきたうえに,97年度景気局面 がさらに深刻化し金融システム不安の影響も重なり,調整の作用が一段と強まったことを示すものである。
 (3) 部門別には企業部門では投資活動の低調を背景に,同部門の資金調達額は96〜97年度続けて銀行借入金を中心に収縮した。公共部門では中央・地方を通 じて財政事情が悪化し国債等の増発など資金調達額が大幅に増加した。個人部門では現金・預金とくに要求払預金の保有が増加し,信託・保険・証券投資など非流動的資産の保有増加額は伸び悩んだ。これは持続的な低金利のもとで企業・家計の金利選好が後退し,金融不安への対応から流動性選好が高まり,非預金資産から預金へ資金シフトが生じたことを示すものである。
 (4) 「広義金融市場」(金融機関と証券市場)における資金仲介の流れ全体の規模が縮小するなかで,リストラを迫まられている民間金融機関とくに銀行の貸出は純減し,公的金融機関の貸出は民間金融を補完するかたちで増大した。一方,民間・公的金融機関ともに国債等の証券投資は拡大した。
 (5) 通貨供給量M+CDの伸びは95年度以降年率3%台,景気低迷の実体経済活動(名目成長率+0.2%)に比べてまずまずの伸び率であるが,銀行信用面 の対応関係では国債の引受けと外国為替の買入れが大勢を占め,貸出増加は僅かの額にとどまった。また97年度については対企業貸出は純減でM+CDの減少要因であるが,金融債の解約等による資金シフト分がMの増加額に相当含まれている。これは金融不安下のひとつの動きであるが,また前記の企業・家計の流動性選好の高まりを示す一面 でもあろう。
 (6) 金融資産負債残高のバランス面では国内経済3部門の金融資産残高の対GDP比率は97年度381%,負債残高の同比率は356%,対外純資産残高の同比率は24%である。90年代を通 じた中期的な動きを部門別にみると,企業部門の負債比率の低下,公共部門のその上昇と対照的である。これは長期にわたる景気後退期特有の動きを示すものである。一方,個人部門の金融資産残高は,その増加テンポこそ低下したとはいえ,97年度末残高は1,227兆円,対GDP比率243%である。
 (7) 最後に,「資金循環の図式論」の視点から景気低迷・金融不安下の資金循環の現局面 を位置づける。
 資金循環の始発点(第1過程)である銀行の与信活動では,対企業貸出が伸び悩み状態で,それを埋める国債投資が増加したものの,続く産業的流通 (第2過程)も「マイナス成長」で活力を欠いていた。そのため第1過程と第2過程の間は「銀行貸出減-マイナス経済成長」の負の循環となった。これが資金循環の縮小の源流である。
 「広義金融市場」の資金仲介過程(第3・第4過程)において,民間・公的金融機関の受信面 には民間の流動性選好の高まりを映じて流動的預金が増大し,与信面では貸出増よりも国債投資が主体であった。この間,日銀信用が増大し,民間の増大する銀行券需要を充足し,銀行の準備預金需要の増大の資金手当にむけられた(第5過程)。先行き景気回復が望めず,金融不安の根源が払拭されていない現局面 では,日銀信用の増加は,銀行信用の次の増加へとつながらなかった(第5過程→第1過程)。
 以上,現局面の資金循環の総過程において「銀行信用の収縮,民間の流動性選好の高まり,国債の増発,日銀信用の増加」の4変数が資金循環の動きを特色づける要因としてクローズ・アップしてきた。これらの4変数は,企業の景況感,金融財政政策の推移,金融システムの信認とともに,資金循環の今後の動きを決める重要な要因である。

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