第19号(1999年5月) 成長経済下の金融・財政システム
資本と企業の経済理論・補遺
―企業論・コーポレートガバナンス論との関連で―
柴垣和夫(武蔵大学教授)
- 〔要 旨〕
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本稿は,筆者がここ数年来発表してきた小論「資本と企業の経済理論」並びに「再論・資本と企業の経済理論」の続編で,両者で論じきれなかった若干の問題を取り上げたものである。第一は,マルクス=宇野経済学の原理論で企業論を取り上げうるかという問題であるが,コースの企業論とそれそれを引き合いに出してその可能性を論じた新田滋氏の所説を批判し,企業論本来の舞台は発展段階論以降にあることを示唆した。第二は,アメリカにおいて経営者資本主義が先駆的に確立し,チャンドラー2世が明らかにしたように,「職業経営者は経営上の意志決定にさいして,どちらかというと,現在の利潤を極大化するよりも,企業の長期的な安定と成長に有利な政策を選好する」といわれたにもかかわらず,他方では米国企業では株主権が強く,また,近年上記の選好に反する短期的利潤・配当の極大化を指向するようになったのはなぜか,を問題にした。検討の結果 ,もともとアメリカで株主権が強いというのは誤りで,制度的には日本以下であること,上記の近年の傾向は,80年代以降,機関投資家が株式のインデックス運用に伴う技術的理由から株主権の主張を始めたこと,並びに敵対的買収の盛行に対する経営者の対応として理解しうることを明らかにした。第三に,近年の日本におけるコーポレートガバナンス論議を代表するものとして,日本コーポレート・ガバナンス・フォーラム「コーポレート・ガバナンス原則策定委員会」の最終報告を取り上げ,「株価の最大化」に経営目標を置くことが「株主利益の最大化」であるとするその主張は,優れた生産的機能を持つ日本の企業を金融操作による投機的経営に導く危険があることを指摘した。