第19号(1999年5月) 成長経済下の金融・財政システム
証券会社のコーポレート・ガバナンス
小林和子(東京研究所主任研究員)
- 〔要 旨〕
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アメリカでは1970年代からコーポレート・ガバナンスについて議論されてきたが,日本においてはアメリカ法律協会の最終研究報告が翻訳出版されたのが1994年,経済各分野で議論されるようになったのは90年代後半である。これまでに議論されてきたのは,主として製造業等を中心とするコーポレート・ガバナンスの一般 論であり,金融・証券業のような個別の産業論の一環としてはほとんど論じられてこなかった。 しかし,1991年の金融・証券不祥事,1997〜98年の総会屋への利益供与事件不祥事等,バブル崩壊後の経済界の大不祥事の生じた場所の1つは金融・証券業株式会社である。その結果 ,すでに複数の大小金融機関が破綻しているが,これらの原因事由解明にあたり,遅ればせながら証券業株式会社のコーポレート・ガバナンスを考える際の条件というべきものを検討しておきたい。
そもそも設立・営業が自由である近代的株式会社において,一部にはその自由に制約が加えられた分野がある。金融・運輸等,公衆保護と国民経済的見地から営業の開始には免許が必要と考えられた少数の分野である。証券業は歴史的に見て,必ずしもここにいう金融の分野には含まれなかったが,1965年証券恐慌直前の危機的状況に鑑み,証券会社を立て直すことによって証券市場そのものの基盤を強力にする目的で,それまでの登録制から免許制に転換させられた。この免許制証券業株式会社に認められた「自由」はどの程度のものだったのか。営業の独自の,創造的展開が行いうるのはきわめて限られた領域に止められたのが実態である。
そのうえで,上場証券会社の大株主(上位10株主)には上場会社一般 と同じく,あるいはそれ以上にメインバンクおよび系列企業が登場し,役員構成においても若干のメインバンク出身者があることを見る。しかしこの事実が実際にはどの程度,証券会社のガバナンスに影響を及ぼしたかは判断できない。メインバンクとそのグループの中に証券会社が明確に組み込まれていない多くの例では,証券会社の現経営陣の経営方針を支持する安定株主としての役割が相対的には大きかったと思われる。むしろ,今後重視すべきは,証券会社のステイクホルダーの章でみた債権者の範囲がそっくり証券会社の金融取引を反映していること,および一般 事業会社における「消費者」概念が証券会社にとっては発行・流通市場における取引対象だけでなく,証券市場一般 と考えなければならない点であろう。今後,登録制証券業においては,これを先取りして,社内のコンプライアンスの質,水準を上昇させることが肝要であろう。