第19号(1999年5月) 成長経済下の金融・財政システム
ロンドン証券取引所における新取引システムの導入(下)
吉川真裕(大阪研究所主任研究員)
- 〔要 旨〕
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1997年10月20日,ロンドン証券取引所はSETSと名付けた新しい取引システムを導入した。これはSEAQと名付けられた従来のクォートドリブン方式とは異なり,指値注文板を持つオーダードリブン方式の取引システムである。SEAQを導入した1986年10月27日のビッグバンと呼ばれる市場改革から11年が経過し,この新取引システムの導入は第2のビッグバンとも呼ばれている。
1998年3月には導入後4カ月間の取引状況を振り返り,取引状況の分析とこれを踏まえたルール変更に関する協議文書がロンドン証券取引所から発行され,5月28日にはSETSに関する規則変更とそのスケジュールが決定された。この決定を受けて,6月8日には最低取引単位 の撤廃と最大取引単位の引き上げが行われ,7月20日にはSETSの取引開始時間が繰り下げられ,LIFFEの取引終了時間はSETSに合わせて繰り下げられ,公式引け値も取引終了時の最良気配の中値から最終取引価格に変更された。そして,1998年12月14日には引け値の決定方法が加重平均価格に変更され,取引停止措置の発動基準は寄り付き直後の最良気配から最初の取引価格に変更され,同時に発動変動幅も拡大され,指値注文の20%ルールも撤廃された。
協議文書の中ではSETS採用銘柄のSETS対象取引の60%がSETSを通じて取引され,75%はSETS価格で取引されているとされているが,多くの新聞報道等ではSETS採用銘柄の取引のうちSETSを通 じて取引されているのは40%に満たないと報道されており,SETS利用者への2つのアンケート調査でも評価は芳しくない。他方,機関投資家の取引費用に関する2つの分析ではSETS利用に伴う費用削減効果 が確認されている。こうした肯定派や否定派の主張はいずれも事態の一面 をついているが,総合的に考えれば,1998年後半からSETSの利用は傾向的に増加しており,今後もこの傾向が続いていくとすれば,肯定派の主張がより有利であるように思われる。
ところで,ロンドン証券取引所とドイツ証券取引所は共通プラットフォームの開発を目指して戦略的同盟を結ぶことで1998年7月7日に合意した。ロンドン証券取引所によるドイツ証券取引所との戦略的提携,そしてこれを踏まえたヨーロッパ統合株式市場設立への動きはSETSの導入なしにはあり得なかったことであり,SETSの導入はイギリスにおけるクォートドリブン方式からオーダードリブン方式への切り替えという歴史的転換点であるばかりでなく,ヨーロッパの株式市場全体にとっても市場統合の契機として極めて重要な位 置づけを与えられるべきものであろう。