第20号(1999年7月)
米国における市場間競争の展開
伊豆久(大阪研究所主任研究員)
- 〔要 旨〕
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日本では,1998年12月より取引所集中義務が撤廃され,上場銘柄の場外取引が解禁された。これに対して取引所でも定率会費(場口銭)の引き下げ,立会場の廃止,新しい取引システムの導入,など一連の改革が進められている。こうした市場間競争の促進による取引システム改革は,証券取引の効率化をもたらすものであるが,その一方で,取引の公正確保という点では問題なしとしない。複数市場の並立は,価格の分裂,流動性の分裂を招きかねないからである。この点,取引システム改革の先行国である米国において,どのような改革が,どのような背景のもとに進められかを検討すること,それが本稿の目的である。米国における市場間競争の展開は,(1)1960年代後半の,第三市場の発生による市場の分裂,(2)70年代半ばの,手数料自由化と全米市場システムの導入,(3)80年代の,第三市場等の復活,(4)90年代後半の,執行ルール改革,の4つの時代に分けることができる。そして,こうした変化をもたらした最大の要因が機関化の進展であることは,繰り返し指摘されてきたところである。しかし,例えば上記(3)の第三市場等の復活は,小口取引を主たる対象としたものであり,機関投資家の台頭のみですべてが説明できるわけではない。そこで本稿では,これまで比較的取り上げられることの少なかった小口取引に着目して,そこから改めて市場間競争の展開を整理したものである。