第20号(1999年7月)
銀行構造の変化と資金地元公平還元法の拡大
高月昭年(明海大学教授)
- 〔要 旨〕
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80年代半ば以降の米国では,銀行合併が急速に進み,過去15年間でおよそ1/3が消滅している。合併により,小零細企業向け小口事業貸出に重要な役割を果 している中小規模銀行の大型化や資本系列の変更など,経営支配構造が大きく変ってきており,このため,このような変化が小口事業貸出に与える影響に関心が高まってきた。この問題を巡っては,多くの研究が試みられており,当初は,小口事業貸出に抑制的に働くとの見解が多かったが,研究の蓄積とともに,このような見方に批判的な見解が有力になってきている。しかし,それにもかかわらず,抑制的な影響を否定しさることはできず,懸念は残る。
一方,この問題は,銀行に,その営業地域内にある低所得者層にも公平な信用供給を求める資金地元公平還元法(CRA)にも大きな影響を与えている。CRAは当初は住宅貸出を念頭においた法律であったが,90年代に入ってからは小口事業貸出の公正な供給に重点が移ってきており,また,一定の成果 を上げている。
日本においても米国にみられるような銀行構造の変化は予想されるところであり,このことが証券市場などの代替的な金融手段に乏しい中小零細企業の金融活動に支障がでないような対応が必要である。このために,米国の経験からは,小口事業貸出の証券化や貸出審査におけるスコアリング方式の開発が考えられるが,合せて,CRAの導入も検討に値しよう。