第22号(1999年11月) 機関投資家とコーポレート・ガバナンス
株式保有構造と年金基金
―イギリスと日本の比較―
代田純(立命館大学助教授)
- 〔要 旨〕
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本稿はイギリスにおける株式保有構造と年金基金との比較において,日本における株式保有構造と年金基金の特質を検討するものである。
まず本稿では90年代に入ってからのイギリスにおける税制,とりわけ所得税との関連で年金課税問題,換言すれば私的年金への税制優遇を明らかにする。そして税制優遇も一因となって,イギリスにおいて年金基金の残高は90年代においても年率換算10.8%で増加を続け,96年年末には5,600億ポンド(1ポンド=225円で約126兆円)に達した。イギリスの年金基金は80年代から株式組み入れ比率が高かったが,90年代においても同比率は65%前後で推移している。大手年金基金は旧国有化産業が多いが,ほとんどの基金の単年度収支は黒字で推移している。大手年金基金では自前の運用であるインハウスで運用されているが,銀行など専門的資金運用機関に外部委託される場合もある。専門的運用機関の運用利回りは株価指数の上昇率を上回り,16%台に達するケースもある。こうしたなか,株式保有構造においても年金基金は30%近い比率を占めている。
他方,日本における代表的な企業年金は厚生年金基金と適格年金である。厚生年金基金を中心として税制優遇を受けているが,近年厳しい財政事情から解散が続いている。しかし拠出金増加から年金基金の資産残高は増加し,97年度には70兆円程度に達した。近年,年金基金の運用利回りは低迷を続けており,90年代において運用規制の緩和がはかられてきた。運用規制緩和のなかで,年金基金の資産構成において株式組み入れ比率は上昇している。また運用受託機関としては,投資顧問会社がシェアーを増加させている。退職給付会計の改正等を背景に,持ち合い株式の年金への拠出も見込まれ,年金信託による株式保有は日本においても増加を続けよう。