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第23号(2000年1月)

中国上場企業の株式所有構造とコーポレート・ガバナンスの実態

王東明(大阪研究所研究員)

〔要 旨〕

 1997年9月に開催された中国共産党の第15回全国代表大会(以下中共15大と略称)では,国有企業改革は「現代企業制度」の確立を目指し,今後大中型の国有企業を中心に,有限責任制に基づく株式会社制度の導入を軸に企業の制度改革を展開する方針を打ち出した。その狙いは,現在大量 の余剰人員,赤字および不良債権を抱えている国有企業が経営難から脱出し,企業の活性化を図り,市場の競争環境に適応し,新しい企業制度を構築することにある。
 株式会社制度の導入は80年代の半ば頃から実験的に開始され,現在上海と深Eの両証券取引所に上場を果 たした企業は900社を超えた。市場経済の展開,そして株式会社制度の導入と証券市場の形成は国民経済にプラス面 の影響を与えると同時に,失業,倒産,所得格差および市場投機などのさまざまな社会不安と矛盾をももたらした。しかし,あくまでも中国は「社会主義市場経済」を目指しており,市場経済の競争原理を如何に社会主義の「理想と理念」と結合させるか,換言すれば公有制と市場の「調和」を求めることが国家の目標になっている。このような政治・経済環境の下で,一体企業改革のモデルとされる上場企業は,どのような所有構造の下で意思決定を行い,企業経営を運営してきたのか。また,国有企業から株式会社へと組織変更した企業では,その「所有と経営の関係」,「所有と支配の関係」さらに「国家と企業の関係」はどのように変化したのか,企業の意思決定の在り方に関わる問題つまりコーポレート・ガバナンスは,近年どのようなかたちで再構築されているのかが注目されるところである。その意味で,企業制度改革の現状と方向を把握するため,中国の株式所有構造とコーポレート・ガバナンスの実態および問題点を明らかにする必要があると考えられる。
 本稿の前半では,まず「改革・開放」政策が実施された後の中国社会の所有構造の変化を概観し,国民経済に占める国有シェアの後退と私的シェアの台頭および所有構造の多様化・多元化という二つの傾向を紹介する。そして,株式会社,とりわけ上場企業を対象に,その株式所有の構造と特徴を整理し,そのうえで,上場企業を産業別 と業種別を分けて株式所有の特徴を分析し,株式所有と国の改革方針および産業政策との関連を見ていく。
 後半では,まず幾つかの企業調査を通して,上場企業のコーポレート・ガバナンスの実態を考察する。そして,中国企業のガバナンスの問題点を指摘する。ここで特に強調しておきたいのは政府(大株主)と企業の関係,重役人事の選任方法,また中国企業に特有の「老三会」(党委員会,従業員代表大会,工会:労働組合)と「新三会」(株主総会,取締役会,監事会)との関係,さらに党組織の存在とその役割などの要素が企業の意思決定と経営チェックに重要な影響を与えることである。また,企業のさまざまな利害関係者,いわゆる中国流のステイク・ホルダー(大株主を代表する政府,一般 株主,経営者,党組織,従業員,銀行,取引先など)の関係が如何にうまく調整され,健全な企業経営とインセンティブの向上につながっていくのかが問題の焦点になるであろう。最後に,「会社法」における株主総会,取締役会,監査役会などの諸規定を確認したうえ,中国社会に適応したコーポレート・ガバナンスの中国型モデルは,どのように構築したらよいのかを考察し,今後企業制度改革の実験を通 して,責任体制の確立および経営チェック機能の健全化などのガバナンスの在り方に関しては,客観的な基準と制度的な保障の必要性を強調する。

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