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第23号(2000年1月)

日本企業とメインバンクにおけるプリンシパル-エイジェント関係の変化

阿萬弘行(京都大学大学院)

〔要 旨〕

 日本の金融システムでは,従来メインバンク関係の存在が大きな特徴である。企業と銀行との間の緊密な取引関係であるメインバンク関係は,リスク分担機能を備えたプリンシパル‐エイジェント関係として捉えることが可能である。本稿のテーマは,メインバンク関係は実際にリスク分担機能を果 たしてきたかをスタンダードなプリンシパル‐エイジェントモデルに基づいて計量 分析することである。これまでの関連の先行研究では,メインバンクのリスク分担機能の提供に影響を与える重要な諸要因については考慮していない。とりわけ,こうした一種の保険機能が働く場合に障害となるモラルハザード問題について明示的に取り扱っていない。いっぽう,日本の製造業におけるサプライヤー関係を,リスク分担の視点から計量 的に分析した代表的な論文としては,Kawasaki & Mcmillan(1987) とAsanuma & Kikutani(1992)が挙げられる。これらの論文では,モラルハザードなどの要素を明示的に含んだモデルによって,サプライヤー関係を実証的に分析している。したがって,本稿は,より正確にリスク分担機能について検証するために,モデルの定式化においてこれらを参考にすることで,フォーマルなモデルに基づいた実証分析を行う。
 また,メインバンクに関する既存研究は,ある一時期をとって,特定の機能が働いていたかを検証するものであった。しかし,一つの金融システムが,そのままの形で,いつの時代にも有効であるという保証はない。資金調達手段の多様化などの制度的要因,経済環境の変化に適応するように,メインバンク関係も変わらざるをえないと考えられる。したがって,本稿は,エイジェンシー関係の時間的変化をもくみ取れるように,サンプル期間を二つに分け,比較検討することにした。その結果 からは,1985年までの時期には,推定結果が,理論の予測する命題と整合的であることが確認された。メインバンク関係が有意にリスク分担機能を果 たしていたことが示されたのである。しかし,86年以降の時期については,リスク分担機能が低下したか,あるいは,機能していないことが示唆された。これは,メインバンク関係の構造変化を示唆している。

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