第23号(2000年1月)
高レバレッジ金融機関(HLIs)と短期資本移動に関する国際的な制度上の枠組み
―G7合意を中心に―
周宇(大阪市立大学大学院)
- 〔要 旨〕
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1992年9月の欧州通貨危機以来,ヘッジファンドが再び国際社会の注目を浴びたのは1997年のタイの通貨危機においてである。そして,通貨危機がアジア地域へと広がっていく過程で,通貨投機に対する規制が必要かどうかを巡って,マレーシアのマハティール首相とジョージ・ソロスとの論争がひとつの話題となった。この論争に関して,当時のマス・メディアは圧倒的にソロスを支持していた。しかし,1998年9月のLTCMの経営破綻をきっかけに,人々はようやくヘッジファンドによる問題を重視するようになった。こうしたなかで,ヘッジファンドに対する監視と規制を要求する国際社会の声が国際金融システムの改革を加速させるひとつの要因となってきた。
メキシコ通貨危機から始まり,アジア通貨危機によって,ペースを速めてきた国際金融システム改革の内容を見ると,その焦点はいかに巨大化しつつある投機マネーに対応するかという問題に当てられている。肥大化したマネー経済が実体経済の安定を脅かしている現状を踏まえて,G7主要先進国やIMFなどの国際機関は真剣に国際金融システムの改革の必要性を検討してきた。その成果 として,1999年6月のG7サミットで主要先進国はヘッジファンドに対する間接規制,ヘッジファンド自身の情報開示の義務付け,短期資本移動に対する国際的な監視の強化,および通 貨危機に対応するための一時的な資本流出入規制の容認などについて合意した。不安定な短期資本移動に対応するために,ある程度の適切な規制も有り得るというG7の合意は,通 貨危機に対応するための発展途上国の選択余地を広げただけではなく,今後の国際金融システムの改革についても,ひとつの重要な方向性を示したと考えられる。