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第24号(2000年3月)

証券取引所―日本における制度論と歴史

小林和子(東京研究所主任研究員)

〔要 旨〕

 1996年に始まった金融・証券ビッグバンの議論は1998年から実行に移され,98年12月の金融システム改革法施行により一気に急展開し始めた。この過程で,従来一般 には「証券市場」とほぼ同義に把握されることもあった証券取引所自体が,その制度も機能も相当に変わりつつある。証券取引所の制度と機能は不即不離ではあるが,機能によって制度が形作られ,その制度では新たな機能が包含できないとなれば再び制度が変えられることにもなる。現在はその大きな転換点にあると思われる。その評価に当たって,明治以来の取引所制度の議論と実態を大きく把握することが本稿の目的である。
 戦前期は元老院や帝国議会で取引所に関する議論がずいぶん行われた。現在,戦後の証券界の目から見ると,取引所といえば証券取引所だけであるが,明治期には有価証券の取引所と商品の取引所の双方を指し,現実に同じ取引所の中で双方が取引対象にもなり,さらにいえば社会的には取引所といえば商品の取引所という認識から始まっていた。なぜなら,近い過去である江戸時代にすでに存在した全国的商品である米の取引が銘柄格付けによる先物取引として精緻な制度を形成しており,この経験を抜きにしては「取引所」をイメージしえなかったからである。
 最も保守的な意見では取引所を娼妓の禁止と同格に捉えて「本来禁止であるが,とうてい禁止しきれないので一定の枠組みのなかで厳重に監視して許可する」というものがあり,この本来的取引所不要論が,社会的な取引所有用論に変わるまでには数十年を要した。結局,株式会社制度の取引所は認めたが,会員制の同業者仲間組織の規制を加味したものになった。こうした組織が変更されるのは戦時下の日本証券取引所への統合によってである。戦後はこの経験に鑑み,またアメリカ型の証券法をモデルにしたため,会員制の証券取引所が創設されて現在に至っている。しかし創設以来50年,現在は市場間競争の中で証券取引所の株式会社化が議論されている。歴史の歯車を元に戻すものではないとしても,大規模化した市場を背景に証券取引所の株式会社化にはそれなりの考えるべき問題があるだろうと思われる。

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