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第25号(2000年5月)

グラス・スティーガル法16条再考

高月昭年(明海大学教授)

〔要 旨〕

 グラス・スティーガル法とは,1933年銀行法のうちの,銀行の証券取引に関連する16条,20条,21条,32条の4か条の総称であるが,このうち20条と32条は,1999年11月12日に成立した,通 称グラム・リーチ・ブライーリィ法によって廃棄された。これによってグラス・スティーガル法の改正が実現し,銀行と証券の相互参入が実現した。20条は,銀行と証券会社が関連会社となることを規制し,32条は銀行と証券会社の役職員の兼任を制限するものであった。この両条の廃棄によって,銀行持株会社の下で,銀行と証券会社を自由に所有できるようになった。いわゆる20条関連会社のような制約は,もはや受けない。一方,16条は銀行本体の証券業務を規制するもの,20条は証券会社の預金受入れを禁止する規定で,両条は表裏の関係をなすものであるが,これらに修正はなく,また,修正に向けた動きも皆無である。つまり,ヨーロッパ型のユニバーサル・バンキングを選択しないというのが,米国の基本的な考え方である。
 それでは,グラス・スティーガル法16条は,何を意味するものであろうか。通 説的な理解は,銀行の証券業務を原則的に禁止する規定というものである。しかし,銀行の証券業務は,1864年の国法銀行法と判例理論によって,グラス・スティーガル法制定以前においても原則的に認められていなかった。これに対して1927年のマクファーディン法は,一定の条件の下で,国法銀行に投資証券の売買を認めた。グラス・スティーガル法16条は,マクファーディン法が認めた投資証券の売買を規制する目的であったと説明されているが,その内容を詳細に吟味していくと,通 説とは反対に,証券業務を,マクファーディン法以上に拡大させる面がある。今日一般 的な,国債の現先取引や,証券ブローカー業務は,国法銀行やマクファーディン法の下では認められない取引であり,グラス・スティーガル法16条によって始めて可能となるものである。このように,グラス・スティーガル法16条を正しく理解するためには,国法銀行やマクファーディン法と関連付けながらみていく必要があり,この作業を重ねていくと,グラス・スティーガル法16条の,通 説とは異なる姿が浮かんでくる。

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