第27号(2000年9月)
証券会社の経営組織と人事制度
二上季代司(大阪研究所主任研究員)
- 〔要 旨〕
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1.大手証券会社のガバナンス構造は一般事業会社と同じく「状態依存的ガバナンス」であるが,メインバンクは対一般 事業会社と違って証券会社に対しては監視機能が弱いとされ,免許制に基づく大蔵省の事前行政指導はこれに代替する役割を担ってきた。一方,大手証券会社のガバナンス構造が「状態依存的ガバナンス」であると云うことは,大手証券会社の経営組織,人事制度について基本的には事業会社と共通 する「日本的経営」が貫徹していたこと,つまり日本の証券会社の場合には業務の特性が経営組織や人事制度に反映していないことを意味する。
2.これに対してアメリカの証券会社の経営組織,人事制度は製造業など他の産業と比べて異なっており,業務の特性が反映されている。投資銀行とワイヤーハウスとの間でさえ違いがあるのだが,他産業と比べてみても組織単位 がはるかに分権的かつ自律的であり,人事権は各部門長にあり,昇進・報酬のベースは各部門によって異なるし,部門間の配置転換は原則的になく,昇進に関する考え方,報酬のあり方も他産業と著しく違うのである。
3.日本の場合は組織構造が統制的であり,人事制度においても人事部の一括採用,包括的労働契約であり,配置転換は拒否できず,職能資格制度に基づく人事評価など他産業と異なるところはない。こうした日本的雇用慣行は固定費がかかることから収入が大きく変動する証券業には本来は不向きであるのだが,推奨販売政策を遂行する上では合目的的であり,財閥解体後の株主大衆化および資金のアベイラビリティ確保という,高度成長期に課せられた証券界へのニーズを満たすという観点からみると合理的であった。
4.90年代に入って,日本経済の基調は大きく変化,発行会社と投資家の証券界に対するニーズは根本的に変わってきている。これに応じて企業戦略と組織設計は変わらざるを得ない。証券会社のガバナンス構造の変化も避けられないだろう。