第29号(2001年1月)
株式分割と保管振替制度
福本葵(大阪研究所研究員)
- 〔要 旨〕
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インターネット関連企業を中心に大幅な株式分割を行う企業が出現している。これらの企業の中には,新市場に新規公開したものの,株価が高騰したために,売買が硬直してしまったものがあった。そこで,大幅な株式分割を行うことによって,株価を引き下げ,株式の流動性を高めたいとするニーズが高まった。
しかし,ここにきて株式分割については,二つの問題が指摘されている。一つは,株式分割を行う際,商法218条2項後段の一株当たりの純資産制限があるため,流動性確保のために必要とされる株式分割ができないといった問題であり,もう一つは,株式分割が信用取引の担保割れを招き,株価の下落材料になっているという問題である。
株式分割の純資産による制限規定は,昭和56年商法改正時に設けられたものである。商法218条2項後段が要求する資産についての考え方は,この条文が作られた昭和56年時点と,現在とでは変化しているという意見がみられる。つまり,昭和56年当時主流であった製造業については,純資産の制限は有効であったが,会社の資産を知的所有権や情報,技術力等,貸借対照表に記載されない財産をその拠り所とするインターネット関連企業を純資産のみで企業を評価するのは適切でないとするものである。これらの企業の中には,株式分割制限規定に新たな解釈を行うものや無額面 株式の一株一円株主割当を行って,制限規定を回避するものが現れている。
さらにもう一つの問題として,株式分割によって信用取引に担保割れを招くという問題がある。これについては,保管振替制度のみなし預託を利用して,担保割れを回避しようという解決策が考えられている。みなし預託を利用することによって,株式の効力発生日に分割後の株数を加算し,それと同時に新株の売買を可能にすることができる。しかし,これには,保管振替制度を利用する株主と利用しない株主との扱いに差異が生じるという批判がある。これに付随して,保管振替制度を利用する株主と利用しない株主との差異について言及し,保管振替制度そのものの問題を取り上げる。