第29号(2001年1月)
情報技術(IT)の発達とECN
日向康一(大和総研ニューヨーク情報技術センター主任研究員)
- 〔要 旨〕
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証券業界における情報技術(IT)の発達が既存ビジネスの枠組みを脅かす代表例としては,オンライン・ブローカーのほかに既存取引所・市場に対抗するECN(電子証券取引ネットワーク)が挙げられる。どちらのケースにおいても単に既存業者のライバルとなっただけでなく,インターネットに代表される最新ITの適用により,既存ビジネスの在り方や枠組みそのものを変えてきており,その新たに再構築された枠組み(市場)の中で先行者メリットを享受している点で注目される。
ECNの業務は,出資母体や戦略パートナーとの利害関係,対象とする顧客層などと密接に関わっており,マーケットメーク制度を補完する意味でのオークション型取引所として存在する以外にも,機関投資家向け注文管理・注文回送システム,複数市場へアクセスするためのインターフェイス・ポータル,証券会社を中心とした注文処理の内製化を行うためのツールなど多様な側面 を併せ持つために,一つの定型化されたビジネス・モデルを表す言葉とはならない。また一部のECNではシステムの優位 性を背景とした処理の迅速性,低コスト化,多様なサービスを武器にビジネス・チャンスを生んできていることから,今後のインターネット時代を担う金融ビジネス分野における最先端のITを有するテクノロジー企業としてECNを捉えることもできる。
ITの発達に伴い市場はハイブリッド化し,最終的には場所や時間による制限・規制がなくなり,ネットワーク化されたデジタル・マーケットともいうべき存在に発展していくものと考えられるが,現在,米国において証券会社や機関投資家が行っているECNへの投資とその利用は,取引執行コストの低減に寄与するほか,グローバルな電子証券取引市場という新たなマーケット・モデルを構築,発展させていくための第一歩となる。グローバルな電子証券取引市場の構築は始まったばかりで,まだ確固たるビジネス・モデルが存在する訳でもなく,またテクノロジーや法規制面 で解決すべきことも多いが,近い将来実現する可能性は高い。このため,取引市場の電子化の分野で先行する米国のECNと既存取引所の関係には注目していく必要がある。