第29号(2001年1月)
アサヒビールの財務構造の変化とメインバンクによるモニタリング
吉田美樹子(大阪市立大学大学院)
- 〔要 旨〕
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アサヒビール(以下,アサヒ)は,近年,急速な売上高の増加やシェア拡大によって注目されるとともに,それを背後で支えたメインバンクの貢献も賞賛をもって語られることが多い。しかし,87年の「スーパードライ」発売およびそのヒット以降,同社の売上およびシェアは上昇したにもかかわらず,財務内容は改善していない。さらに,アサヒが急成長を遂げた背景として,メインバンクである住友銀行が同社の経営に長期的にかかわっていた。そして結果 的に「スーパードライ」がヒットしたことで,売上およびシェアが急拡大したために,住友銀行による経営支援は成功したと評価され,メインバンクによる救済の成功事例とされた。しかし,財務内容にまでふみこむと,短絡的にこれを成功事例とみなすことはできない。前述のように,表面 的な売上やシェア拡大の背後で財務内容の悪化が進んでいるからである。このことは,いわゆるメインバンクのモニタリング機能に対して,それが十分に機能していなかったのではないかという重要な疑問を引き起こすものとなっている。
したがって,本論文ではアサヒの事例をとりあげ,第一に財務戦略の変化を分析する。つまり設備投資の拡大,財テク投資の積極化,そして子会社への投融資が,どの時期にどのような方法で行われたのかを分析したうえで,これら投資を支えた資金調達がどのように変化したのかを考察する。その結果 を踏まえて,第二にメインバンクである住友銀行が,この資金調達の変化にどのように関与したのか,さらにアサヒの財務戦略をモニタリングできる立場にあったのかどうかを検証する。
そのうえで,直接金融においても間接金融においても,メインバンクの関与が強いことを指摘し,資金調達面 において,メインバンクである住友銀行は,アサヒをモニタリングできる立場にあったことを確認する。そして,最後に,メインバンクによるモニタリングの不在が財務内容の悪化を引き起こしたとする,従来のメインバンク論に依拠した説明が,アサヒの事例には妥当しないことを指摘する。