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第30号(2001年3月) 金融システム改革下の公社債市場の課題

日本及び米国の社債市場の比較について
―債券格付けの視点から―

岡東務(阪南大学教授)

〔要 旨〕

 本稿は格付けの視点から債券市場と同市場における格付けの役割についての日米の比較を試みたものである。日本に米国の債券格付制度を手本にした格付けの仕組みの導入が望ましい、とする審議会の答申が出されてから二十数年が経過した。導入後の推移や現状をみると、格付けは日本市場におおむね定着したと判断することができる。しかし、日米両国の実情を比較すると、彼我の差はなお大きいことがわかる。言い換えると、日本の社債市場と格付けにはまだ米国及び欧州から学ぶ点がいくつか残されているように思われる。
 日米の社債市場の比較を通じて明らかになった第1の点は、社債の発行高及び発行残高に4倍から6倍の規模の差があること、第2の点は、米国の社債市場は投資適格格付から投機等級格付に至るまでの幅広い格付分布を持っていることである。日本の社債市場の格付分布が事実上投資適格で占められているのに比較すると、大きな違いとして指摘できる。すなわち、日本の社債市場には現在、発行時からハイイールド債に分類される格付けを持つ、厳密な意味でのハイイールド債市場が事実上存在していない。その事実を踏まえて、先行研究を踏まえながら、日本にハイイールド債市場が成立する可能性を探った。
 分析の枠組みとして、まず資本市場を取り巻く外部環境要因(外部要因)と、資本市場の参加者が内部で解決するあるいは対応可能な要因(内部要因)に分けることにする。
 外部要因とは、経済活動が活発かどうか、あるいは金利水準の動向など金融情勢はどうかなど主としてマクロ経済の状態や、証券行政や税制の変更など資本市場に対する政策全般 の状況などを意味する。一方、内部要因とは、市場参加者、すなわち資金を調達する企業、資金の供給者である投資家及び銀行と、両者の中間に位 置する証券会社や格付機関などの証券売買あるいは証券情報の仲介業者のそれぞれの活動を指すことにする。
 まず、ハイイールド債を発行できると考えられる企業を、ここでは私募債の適債基準を満たす企業とすることが現実的であると考えた。そして一部の銀行が始めた無担保融資の経験が積み重ねられることによって、リスクに見合った貸出利率が設定できるようになれば、ハイイールド債との競合ないし共存が可能になると思われる。
 また、投資家も自らリスクを評価できるようなクレジットアナリストの養成が急務である。さらにつけ加えれば、米国では、個人のみならず企業についても各種の信用情報が完備しているといわれる。今後、信用情報の整備はハイイールド債市場を含めた新しい資本市場の創設には欠かせないインフラの1つである。最後に同じインフラになるという意味で、デフォルト社債を売買するディストレス市場の整備が必要である点を指摘しておきたい。

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