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第31号(2001年5月)

市場間競争とディーラー市場における顧客指値保護

清水葉子(福井県立大学講師)

〔要 旨〕

 オーダー・ドリブンの原理で機能しているオークション市場においては,市場の競争と効率性を支えているのは顧客の指値注文である。このため,オークション市場では,一部のクロス取引などを除いて,顧客指値は価格優先・時間優先の原則にしたがって厳密に序列化されて付け合わされ,劣後執行が行われることのないよう処理される。もし指値注文の優先序列の保護が十分でないならば,顧客が少しでも優れた条件の注文を市場に出そうとするインセンティブが失われ,結果として市場での競争が阻害されるからである。このように,オークション市場で市場設計の基本となる原理は顧客指値注文の保護であるということができる。
 これに対して,ディーラー市場では,一般に取扱い銘柄の流動性が低いなどの理由から,ディーラーの自己売買による積極的な取引関与を必要とする。すなわち,ディーラーが銘柄ごとに売り買いの気配値を提示し,顧客は提示された気配値をもとに相対で注文を出して交渉を行う。このため,ディーラー市場ではディーラーの気配値が市場に流動性を供給しており,気配値間の競争が市場の競争と効率性の要となっている。したがって,ディーラー市場の設計原理の上では,ディーラーが互いに競争的気配を提示しようとするインセンティブが重視されるのであって,顧客の指値注文の取扱いにはこれとの比較上二義的な意義しか与えられていないのが原初的なあり方であると考えられる。
 しかしながら,ディーラー市場が成長してくると,ディーラー市場においても指値注文の保護を放置することは困難となってくる。十分な規模と流動性を持った市場が,顧客利益の犠牲の上に業者利益を優先すると見える制度をとるわけにはいかないからである。とはいえ,ディーラー市場への指値保護規制の導入は,市場の設計原理からはかならずしも原則的ではないため,ディーラー市場にある種の矛盾をもたらす。本稿では米国ナスダックにおける顧客指値保護規制の導入経緯を検討し,オークション市場であるECNとの競争関係にどのような変化がもたらされたのかについて考察したい。

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