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第32号(2001年7月) 変革期の資産運用業

債権流動化の研究視角
―アンバンドリングをめぐって―

深浦厚之(長崎大学教授)

〔要 旨〕

 本稿は,債権流動化に関する次の問いに答えることを目的とする。すなわち,それは金融システムやマクロ経済構造の中でどのように位置づけられ,どのような機能を果たしているのだろうか。そして,債権流動化は直接金融といわれるがその理由はなんだろうか。
 債権流動化に対するこうした経済学的分析が少なかった第一の理由は,その技術的・法的な側面が強調される傾向にあったためである。しかし,債権流動化も金融取引の一種であり,経済学的に解釈すれば異時点間での消費機会の移転ということなる。当然,われわれがこれまでに蓄積してきた伝統的な経済学の議論が利用できるはずであり,またそうすることによって債権流動化の社会的な意義を知る手がかりを得ることができる。
 もう一つの理由は,伝統的なマクロ経済学が,金融システムによって達成される最終的な帰結に主眼を置くMoney Viewによっていたためである。そのため債権流動化と他の金融手法の相違は相対的なものと考えられてきた。それに対して具体的な制度の相違に着目し,金融システムの構成要素・構造が経済に有意な影響を持つというCredit Viewの考え方が近年,支持を集めるようになってきた。この考え方に従えば,資金取引に伴うリスク(期待される消費機会)と流動性(現在の消費機会)間の交換過程で生じるさまざまな撹乱が分析の対象とならなければならない。しかし,両者は排他的な者ではない。もっとも実り多い分析は債権流動化のマクロ経済学上の機能に留意しつつ(Money Viewの視点),個々の局面に見られる分化・組成にミクロ経済学的な考察を加えること(Credit Viewの視点)である。
 ここではアンバンドリング(機能分割)という概念に立脚して冒頭の問いを考える。そして,投資家と債務者の間に生じる関係に軸足を置き,債権流動化をある種のベンチマークとしてマクロ経済の視点から金融システムの持つ機能を探るための機能的アンバンドリングという考え方と,原債権者・SPVに力点を置き銀行など金融仲介機関との対象の中で特質を際立たせるための組織的アンバンドリングという二つの観点を提示する。機能的アンバンドリングという視点からは,債権流動化が一体何をアンバンドリングしているのか,を知ることができる。つまり,それはリスクと流動性の直接交換過程であり,そこに債権流動化の目的がある。また,組織的アンバンドリングという視点からは,債権流動化は金融仲介機関の内部組織を外部組織に分割したシステムであることが導かれる。
 考察の結果は次の三つの主張にまとめられる。第一に,債権流動化の中に直接金融・間接金融双方の要素が並列していること,第二に,どの部分に目を向けるかに応じて直接・間接金融のそれぞれの特性が投影されること,第三に「債権流動化=直接金融」という単純な理解は債権流動化の本質を知る上で不適当であること,である。結局,債権流動化直接金融・間接金融双方の要素を持つハイブリッドな金融手法であり,少なくとも「債権流動化=直接金融」という単純な図式は信憑性が薄い。このことは「債権流動化に適した債権は,直接金融に不適である。」というパラドキシカルな命題を検討することによっても再確認される。

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