第33号(2001年9月)
マレーシアの工業化と開発財政
―被雇用者年金基金の役割を中心に―
チュウ ジン エン(大阪市立大学大学院)
- 〔要 旨〕
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本稿の目的は,マレーシアの開発金融のうち政府開発金融の大部分を占める政府開発財政を中心に,それが1970年代以降の工業化にいかなる役割を演じたのか,そしてまた開発財政の資金はいかに調達されたか,を分析することにある。
マレーシアの1970年代以降の公企業主体の開発政策において,開発国債の発行により開発財源を調達した。その際,被雇用者年金基金(EPF:Employees Provident Fund)は開発国債を引き受けることにより,重要な開発財源となった。また,必要流動性資産規制(Minimum Liquidity Asset Requirement)は,信用秩序維持のために導入されたものであったが,それはまた銀行の開発国債投資義務によって,政府開発財政に銀行預金を動員するいま一つの条件であった。
1990年代以降マレーシア政府は,開発を推進するために創設してきた多数の公企業を民営化するようになった。民営化時代に対応してEPFや商業銀行の投資規制が緩和され,両者は民間企業に対する資本供給機関として再編され,EPFは機関投資家として,商業銀行は長期産業金融機関として再編された。こうして現在では,EPFの政府開発財源としての性格は大きく変わり,むしろ膨大な年金資産を国民福祉の本来の目的に照らしていかに運用するかが重要な課題になっている。