第36号(2002年3月)
会社事業分散化、再集中が企業価値に及ぼす影響
―アメリカにおける実証研究―
柏木敏(当所東京研究所図書館部次長)
- 〔要 旨〕
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アメリカの企業は60年代から70年代に事業の分散化をすすめていたが,90年代になると事業の再集中に経営方針を転換した。この企業行動の変化はエージェンシー理論によって説明される。企業が事業を拡大した理由は,外部資本市場が未発達であったためである。そこでは,本社が子会社のキャッシュフローを,一元的に管理することによって内部資本市場を形成していた。内部資本市場では,自社の事業を熟知している経営者によって資金が効率的に利用され,投資家と経営者との間の情報の非対称性からくる過小投資問題が克服されていたと考えられていた。しかし,経営者は持株が少ないために,個人的な動機によって事業を拡大しようとする誘因をもっている。外部資本市場が発達すると投資家は,自己のポートフォリオを分散化することができるため,分散化した会社に投資する魅力をもたなくなる。ここに分散化ディスカウントという現象が生じ,会社支配権の喪失を恐れた経営者は,市場の評価にしたがって事業の再集中に向かわざるをえなかった。