第36号(2002年3月)
戦後金融システムと証券市場
西條信弘(日本大学講師)
- 〔要 旨〕
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戦後,GHQ(連合軍総司令部)によって推進された金融・証券改革は,いわば米国型の直接金融を中心とした金融システムの構築であり,その中核には証券市場が据えられていた。しかし,現実には,むしろ戦時中に発達した間接金融が重視され,銀行型の金融システムが発展していくことになる。
しかしこうした間接金融優位の金融システムは,わが国経済が資金余剰経済に移行するに伴い,次第に従来の枠組みや通念との間に摩擦を生じることになった。
こうした銀行保護行政を前提とした金融システムは遅くとも昭和40年代には,市場重視へと転換の機会があったと思われる。しかし,その遅れはやがてシステム自体の硬直化を招き,最近の破綻金融機関の増加や不良債権の累積,更には金融空洞化の懸念,経営の自己規律機能の脆弱化などの金融混乱を生み,日本版ビッグ・バンを招くことになった。
こうしたなかで証券市場は,これまで未発達とか,投機的,あるいは不健全といった多くの批判を受けてきた。もちろん証券市場が金銭を扱う以上,そこには投機や利益相反的行為,あるいは詐欺・横領といった不公正取引が介在しやすいことはいうまでもない。自主規制といった証券業特有の規制方式や厳格なルールあるいはコンプライヤンス機能の重視,充実といった要請は,こうしたところに淵現するといってよい。しかし戦後証券市場に加えられた悪評には,銀行に比し高度経済成長に対応する資金調達力に劣ること,株式などの価格変動商品には,投機的という疑念が入り込み易いこと,管理統制色の濃い戦後金融には,本来,自由市場である証券市場はそぐわないこと,銀行サイドにおける無理解と競合意識,あるいは行政の不慣れなどが,戦前からの証券市場軽視(蔑視)観と複合して生じたものも多かったように思われる。
戦後これまで多くの改革が証券市場に加えられてきた。一般には,それほど大きなものと認識されていないようだが,僅か50年の間に未発達とか,遅れている,あるいは業者の経営体質に問題が多いといった理由で,これほどまでに変転する改革が行われてきた業界は,おそらく他に例はあるまい。今回の日本版ビッグ・バンにせよ,戦後の金融・証券改革,あるいは証券恐慌後の改革を凌駕する大改革である。
あまりに不幸な歴史を背負わされてきた結果,昨今のわが国証券市場は,必要以上に萎縮してしまったようである。しかし,それは証券市場だけが未発達であったからではなく,戦後わが国の金融全般が歪だったことにも大きく起因していることに留意されねばなるまい。