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第36号(2002年3月)

家計の危険資産選択と税制

白石小百合(日本経済研究センター研究員)
松浦克巳(横浜市立大学教授)

〔要 旨〕

 日本の家計の金融資産選択の特徴として,米国等に比べて家計資産に占める株式や投資信託等の危険資産の比率が低いことが挙げられる。家計の金融資産選択に影響しうる政策要因のひとつとして,税制が考えられる。本稿では,家計の保有する預貯金・株式などから得られる所得に係る金融所得課税が,家計の資産選択,特に危険資産の保有にどのような影響を与えているかについて,個票データを用いた実証分析を行う。
 具体的にはまず,老人マル優制度の適用を受ける65歳以上世帯が,この非課税枠を越えるに伴い,当該家計の直面する税率が上昇する構造であることに着目し,家計毎に金融所得の実効税率を計算した。家計の資産保有・需要関数の説明変数には「実効税率」に加え,世帯主年齢等の「家計の属性」と,金融機関へのアクセスの容易さを表す「利便性」を用いる。計量方法は保有関数と需要関数を同時に推定するサンプル・セレクション・モデルを採用した。
 65歳以上世帯の推計結果からは,危険資産に係る老人マル優枠を超過しても,危険資産への需要が増加している一方,実効税率の上昇が危険資産保有確率と危険資産保有額を減少させていることがわかった。つまり,老人マル優枠を超えたとしても,危険資産を増やす以外に選択の余地が無い状況がうかがわれること,また,危険資産からの所得に係る実効税率の引き下げにより,危険資産の需要が拡大する可能性があることが示唆されよう。

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