第37号(2002年5月)
清算機関のガバナンス
―競争と市場インフラ―
二上季代司(当所大阪研究所主任研究員)
- 〔要 旨〕
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これまでわが国における証券売買の清算・決済業務は,証券取引所の内部で行われてきたが,今年の秋からこれを外部に分離して新設の統一清算組織に移管することが決まった。しかしこの統一清算組織の出資構成やガバナンスのあり方を見ると,競争政策の観点すなわち「ビッグバン」以降,解禁されてきた証券取引所等の市場間競争の推進と言う観点から見ると極めて問題が多い。というのは特定の証券取引所が圧倒的なシェアを持つような仕組みとなっているからである。
この問題は,国内的には「電力自由化」と良く似ている。電力供給は電力の生産(発電)とその配給(送電),販売が一体となっているのだが,技術革新の結果,発電に地域独占を認める根拠が失われ電力自由化が是認されるようになった。しかし,送電・系統運用はなお地域独占を認めざるを得ない状況である。そうした状況で現状のように電力会社が送電網を所有し,自らの利害に基づいて「系統運用」と呼ばれる電力ネットワークのシステム管理を行っていると新規参入が事実上困難になる。したがって電力自由化を完全に履行するためには,発電と送電を分離して,より公共的色彩の強い送電・系統運用は独立の機関に委ねるべきであるという意見が有力となるのである。
これを,証券取引になぞらえて言えば次のようになろう。技術革新によって証券「取引システム」の領域では自由競争が是認されるようになったが,その後処理である証券「決済システム」の領域はなお公共性の強い分野であり,したがって市場間競争の完全な履行のためには,証券の「取引システム」と「決済システム」は分離して,後者の管理・運営を独立の機関に委ねるべきである。事実,日本の市場関係者がお手本としてきたアメリカでも,1975年の改革以来,清算・決済業務における競争政策は如何にあるべきか,訴訟まで提起されて侃侃諤諤の議論が展開された結果,「取引システム」と「決済システム」は分離され,後者は独立した機関によって運営されるに至ったのである。
このように,決済業務のような公共的色彩の強い分野における競争政策については内外とも参考にすべき類似の事例があるのである。これらの参考事例に習えば,統一清算組織のコンセプトは以下のようになろう。すなわち(1)各証券取引所・市場が出資母体になるにしてもその出資比率に市場シェアを反映させるべきではなく均等出資が望ましい。(2)取締役会も出資母体である証券取引所・市場出身の役員は少数に抑え,参加者代表が多数を占めるべきである。(3) コンピューター管理・保守,データ処理を外部に委託する場合には,「安全性」,「効率性」を足切り基準として競争入札にかけるべきである。