第37号(2002年5月)
企業調査からみた中国のコーポレート・ガバナンス(下)
―企業内党組織の役割と意思決定のあり方を中心に―
王東明(当所大阪研究所主任研究員)
- 〔要 旨〕
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中国の経済改革すなわち計画経済体制から市場経済への移行は,既に20年以上の歳月を経過した。国有企業改革は80年代から主に「経営自主権の拡大」ならびに「経営請負責任制」の時期を経て,90年代半ばから,株式会社制度の導入を軸にした「現代企業制度」(近代的な企業制度)の確立へと展開されてきた。こうした計画経済から市場経済への移行過程のなかで,企業のコーポレート・ガバナンスは,どのように変化してきたかが注目されている。
本稿では,経営者の意識,資質,選任・昇進およびインセンティブに焦点を当てた企業調査を通じて,市場経済化が近年の企業ガバナンスにどのような影響を与えているかを検討する。そしてこれを通じて,企業の意思決定の現状と問題点を明らかにし,また企業内共産党組織が企業経営とどのように関わっているかという企業ガバナンスの中国的特徴を明らかにすることを目的とする。
前号(本誌35号)では,まず市場経済の深化という経営環境の大きな変化の中で,経営者の意識がどのように変化したかを確認したうえ,経営者の年齢,学歴,専門分野および政治傾向を整理し,いわゆる企業幹部の「四化」(革命化=共産党員化,若年化,知識化,専門化)の基準から経営者の資質の変化を分析した。そして,経営者の選任方法および昇進経路を考察し,経営知識や能力を重視する近年の専門的経営者の台頭を示唆した。また,経営者の経済的地位と報酬に対する認識を検討し,経営者報酬と企業業績との関係を明らかにした。それと同時に,「行政人」としての経営者から「経済人」としての経営者への転換という制度的変化に触れ,賃金制度やインセンティブシステムなどの問題を踏まえて,近年の「年俸制」と「ストックオプション制」の導入状況を紹介した。
そこで本号では,中国社会の「出世原理」に触れ,共産党組織が企業経営の中でどのような機能と役割を発揮しているかを分析し,党幹部が重役を兼任する党組織の企業の意思決定への参加を考察する。また,企業制度改革の「先頭部隊」といわれる上場企業の調査を中心に,株式会社の「新三会」(株主総会,董事会,監事会)と「旧三会」(党委員会,従業員代表大会,工会:労働組合)59)との関係を考察し,企業の責任体制とチェック機能がどうなっているかを分析する。そして,「新三会」および「旧三会」と関連する中国型のステーク・ホルダー(企業の利害関係者)の調査結果を通じて,企業の意思決定の在り方と問題点を整理する。
最後に,「現代企業制度」の確立を目指す企業改革の現状を把握し,中国の社会・政治体制と株式所有構造(国有株が全体の50%以上)の下で,市場原理を重視する専門的経営者の台頭および「党政支配」の維持という二重構造の中国型コーポレート・ガバナンスの仕組みを明らかにする。