第40号(2002年12月) 証券市場の規制を巡って
東京証券取引所の変貌と証券市場改革
小林襄治(専修大学教授・当所理事)
- 〔要 旨〕
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1980年代末には世界最大規模を誇っていた東京証券取引所であるが,バブル崩壊後の株式市場と日本経済の低迷・不振が続く中で,その国際的地位は大きく後退した。市場の低迷とともに,さまざまな市場改革・制度改革が行われ,とくに1996年の日本版ビッグバンの提唱以後に改革が加速されている。これらの改革の成果を評価するのはまだ時期尚早であるが,90年以降の改革は,これまでの原理や発想とまったく異なるものが多い。たとえば,昭和40年の証券恐慌の際に証券取引所では,上場審査基準の強化,バイカイ廃止等による市場集中の強化,公益的運営の強化等がはかられた。そして証券会社に対しては救済・再編と免許制移行による保護育成・監督強化が行われた。今回は上場基準の緩和,市場集中義務の廃止,証券取引所の株式会社化,証券会社の登録制等による新規参入・競争の促進などまったく逆のことが行われている。証券制度改革でも,自社株の取得・金庫株解禁,持ち株会社解禁など従来の資本維持や集中排除の原則が逆転したものもある。本稿ではまず,90年以降における証券市場改革と株式・株式会社制度の改革を跡付ける。これを前提に,東京証券取引所政策委員会の89年〜99年の報告書をつうじて,東証が何を考えてきたかを振り返る。そして最後に,東証における株式売買制度の変貌を,立会場取引からシステム(電算化処理)売買への進化の過程として振り返り,1982年の最初の電算化から99年立会場閉鎖まで17年も要した原因を,建替え・スペース・合理化・省力化問題として処理してきた限界として指摘する。