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第42号(2003年6月) ユーロ誕生後のヨーロッパ証券業界再編

ヨーロッパの株式決済市場統合

吉川真裕(当研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 ヨーロッパの株式市場では単一通貨ユーロの導入によってこれまで以上に国境を越えたクロスボーダー取引が増えているとはいえ,各国の証券決済に関わる基盤の統合が不十分であり,各国の法制度や取引規則の違いが存在することなどから,ユーロ導入諸国が1つの国のように各業種間で資金の再配分をおこなうという動きは予想されたほどには進んではいない。
 ヨーロッパ各国の証券取引所は合併や統合という形での株式市場統合を試みたが,イギリス,フランス,ドイツの3大取引所間の主導権争い,各国の証券取引所や会員業者の存立基盤を危うくするという反対から予想されたほどには進展してはいない。
 他方,ユーロ債の決済の大半をおこなってきたユーロクリアとセデルも株式取引では各国の証券集中保管機構との協力関係を確立せざるを得ず,しかも両者の間で対抗意識が強いことから,フランス,オランダ,ベルギー,イギリス,アイルランドを押さえたユーロクリアと,ドイツとルクセンブルグを押さえてイタリアに関心を寄せるクリアストリーム(旧セデル)の対立が収まる兆しは見られない。
 さらに,証券決済機関は併存していても単一清算機関が清算業務を一本化して決済費用の削減を目指すというアイデアもイギリス,フランス,ドイツの3大清算機関の対抗関係から進展する兆しは見えない。
 証券取引所間の統合,証券決済機関の統合,清算機関の統合という形でヨーロッパ株式市場統合へ向けての議論の重心は移ってきたが,民間ベースではなかなか進まない市場統合の動きを欧州委員会が大幅に進めるという可能性も現状では小さく,ヨーロッパの株式市場統合へ向けての道のりはまだまだ遠い。ヨーロッパの株式市場統合を眺めていると民主主義には時間がかかるということを改めて痛感させられる。

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