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第42号(2003年6月) ユーロ誕生後のヨーロッパ証券業界再編

EU投資サービス規制市場指令案の公表(下)

椎名隆一(エムティーエスジャパン証券管理部長)

〔要 旨〕

 EUの証券取引に関する中心的な規制である「投資サービス指令(ISD)」(1996年1月施行)は施行後5年以上が経過し,この間,ISDが推進した単一パスポートを利用しての投資サービスは拡大し,また加盟国間の規制上・監督上の調和も進展した。しかしそれ以上に顕著なことは,90年代後半EUの金融証券市場を取り巻く環境が大きく変わり,統一通 貨ユーロの導入による加盟国間の国境を越えた取引の拡大,情報通信テクノロジーの発展による証券取引システムの電子化など取引インフラの劇的な変化とそれを契機とする各国取引所間の合従連衡の動き,さらには代替的取引システム(ATS)や証券会社内部での注文の自己執行(internalization)などの取引所外取引の盛行など,証券取引形態が大きく変容し,これまでの取引所集中原則を基本としたISDの予定する証券取引規制の枠組みが実効性に疑問がもたれる事態となっていた。
 こうした背景から,1998年以降,ISDを含むEUの金融証券市場法制の抜本改革に向けて欧州委員会による「金融サービス域内市場のためのアクションプラン」(1999年5月)や,さらに「欧州証券市場の規制に関する賢人委員会報告(ランファルシー委員会報告)」(2000年11月の中間報告及び2001年2月の最終報告)などの新たな視点での提言を受け,ISD改定作業が開始されていたが,約2年にわたる公開諮問期間を経て,ISD最終改定案がようやく,2002年11月19日に欧州委員会より公表された。
 最終改定案は「投資サービスと規制された市場についての指令(案)」という名称が示す如く,業者法中心のISDになかった市場運営に関する規制を大幅に取り入れるなど条文数もISDに較べ倍増し,質量 ともにスケールアップされたほか,市場集中義務の撤廃,新たにコア業務と位置付けられた代替的取引システムであるマルチラテラル・トレーディング・ファシリティー(MTF)の運営規制の導入,多様な注文執行手段の下での投資家保護と市場の信認(integrity)を確保するための一連の取引ルール(最良執行義務,注文取り扱いルール,利益相反禁止規定等)の導入(以上第41号),提携代理商規定の導入,透明性義務の充実,受入国の監督権限の制限,実施細則策定におけるコミトロジー手続きの明確化,さらには米国エンロン問題の影響とみられるアナリスト規制,会計監査人規定などの多くの新規定が盛り込まれている。最終改定案は,EU独自の背景をもった証券取引規制の考え方の深化に加え,「市場の分裂」を先に経験している米国流の証券取引規制の考え方にもかなり影響を受けているものと推察される(以上本号)。

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