第43号(2003年9月)
日銀「不良債権問題の基本的考え方」の解釈
―証券化への言及が意味するもの―
深浦厚之(長崎大学教授)
- 〔要 旨〕
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本稿では日銀「不良債権問題の基本的な考え方」の解釈を通じて,不良債権問題と構造改革,証券化との関連について論じる。「考え方」は産業政策・地域政策など実物面 での政策実行,そして不良債権処理策・構造改革の一助になるものとして証券化市場の活用に言及している。ここでは二種類の企業(成長企業と衰退企業)からなる単純な経済における構造変化と資源配分の関係を簡単なモデルを用いて考察し,「考え方」におけるいくつかの政策提案の意義を探るとともに,証券化市場が不良債権処理や構造改革とどのように関連づけられるか,日銀が示したような成果 が証券化市場を通じて実現可能であるのか,について考察する。構造改革の負担を小さくするために,成長産業の経営環境を支援するような政策と衰退産業からの雇用移動が必要だが,一定の条件が整備されれば証券化市場の利用も政策メニューの一つとして考えることが可能である。その場合,証券化の原資産が確定されるためにも遊休資源を用いた具体的なビジネスモデルが確立され,それに基づいた期待収益の算定を行うことが不可欠である。不良債権処理に歩調を合わせた「企業再生プログラム」はこの意味で有効な手立てではあるが,それは証券化の前提条件を整えるものであり,証券化が企業再生を達成することができるという短絡的なものではない。言い換えれば,証券化は遊休資源を解消するための手段ではなく,稼動した遊休資源への資金の流入を加速する手段として理解すべきである。