第43号(2003年9月)
価格統制と租税政策(下)
―傾斜生産方式を事例に―
ソボレフ ロマン(東京大学大学院博士課程)
- 〔要 旨〕
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本稿の目的は,戦後日本の復興過程とそれに伴う経済統制政策について批判的な再検討を行うことである。戦後,日本では戦争によって破壊された経済を再建するために,基礎生産財(石炭,鉄鋼など)の増産を目的とする傾斜生産政策が採用されたが,この傾斜生産は経済全体の統制を前提にしていた。この点に関して,まず,価格統制などに代表される当時の政策がソ連統制経済の手法を取り入れたとする議論が存在する。価格が統制され,戦前から閉鎖されていた証券取引所の再開について政府とGHQとの対立が続いていた状況の中で,通 常の資本主義的なやり方によるこれらの部門への資金調達は困難であった。ゆえに,傾斜生産の展開に伴い強化された金融統制,資金計画,そして復興金融金庫の融資がこれらの企業への資金の重点的な配分を可能にしたわけである。また,復金の所要資金の大部分は日本銀行が引き受ける復金債の発行によって賄われた。この点を強調して,一般 の国債発行がGHQによって禁じられた状況の下で,政府は復金を通じて公債を大量に発行し続けていたとする議論もある。
しかしながら,傾斜生産を伴った経済統制政策がソ連の経済統制と同様のものだったとすれば,金融統制と復金債に過度に依存する資金調達のやり方をどう説明するかという疑問が残る。問題は,ソ連の統制政策と日本のそれとが目的を同じにしながらも,その手法の面で根本的に異なっていたことにある。その相違は,日本の経済復興が前提としていた第一部門と第二部門間の価値再分配の機能に表れている。従来の研究ではこの点が完全に見落とされている。日本の場合,ソ連とは異なり,歳入面において戦時期から企業の利潤統制が行なわれなかったうえ,部門間の再分配が主に価格補給金を通 じて行なわれていたのである。傾斜生産政策における復金債への依存の主な原因はこの点にあったと思われる。本稿はこのような部門間の価値再分配のメカニズムを明らかにし,日本の経済統制の特徴を探るものである。